運と実力を科学する

https://www.youtube.com/watch?v=1JLfqBsX5Lc

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Jshiike 3年以上前 edited | ▲upvoteする | link

Michael J. Mauboussinによる、成功することにおけるスキルと運の関係についての講演。

平均の人とよくできる人の差分、つまり標準偏差がどうなっていて、自分がその中でどこに位置するか。またそれが時系列でどう変化していくかが、運次第なのかスキル次第なのかに影響するというロジック。自分の携わる業界、会社、自分の担当分野などに当てはめて分析してみると相当面白そうです。

世の中には、宝くじやルーレットのように完全に運頼みでスキルが関係ないものや、プロスポーツのようにスキルの重要度が高いものまで様々。「わざと負けることができる。」のであれば、スキルが結果を左右する要素があるということ。

議論の前提となる三つのポイントの最初は、

偉大なスポーツ選手は卓越したスキルと運を兼ね備えると言われる。1941年に56試合連続ヒットを達成したJoe DiMaggioは、生涯打率も3割2分5厘。さらに、30試合以上の連続ヒットを達成した選手の平均生涯打率を調べてみると3割を超え、皆レベルは高い。言い換えると、全てのスキルが高い選手が連続試合ヒット記録をつくるわけではないが、連続試合ヒット記録をつくれる選手は高いスキルに支えられている。つまり、スキルが高いことは前提条件で、幸運がそれに重なり、卓越した選手となれる。

次に平均回帰性、つまり平均値や中央値への揺り戻しの可能性について。スキルと運という二つの要素の比率だけではなく、それぞれの要素の分散度合いと、その中で自分がどこに位置するかで、その後のアウトプットがどう影響を受けるかが把握できるという観点。

平均回帰性の有名な事例は、背が高い父親の息子は平均して背が高いものの、息子達の平均値は父親達の平均値と比べて、世の中全体の身長の平均値に近い。また、背が低い父親の息子は平均して背が低いものの、息子達の平均値は父親達の平均値よりも、世の中全体の身長の平均値に近くなる。これに従うと、完全に運に左右される世界にいると、一度大きく成功したとしても、平均回帰性により次の結果が平均に近いものに揺り戻される可能性が大きい。逆に、もしスキルが全てを占める世界にいると、平均回帰性は働かないので、一度勝った人は次も勝つ。自分の属する世界のスキルと運のバランスにより、平均回帰性の影響度を推し量ることができる。

最後にパラドックススキルについて。プレーヤー間で、絶対スキルが上がって、相対的なスキルの差分が狭くなると、運が影響する度合いがあがる。

Ted Williamsはメジャーリーグで1941年に打率4割を達成した選手。70年以上もこれを達成できる選手がでてきていない。打率の標準偏差を比較してみると、小さくなっている。つまり、平均的な打者とベストな打者の差が狭くなってきている。標準偏差は、0.032から0.027に。Ted Williamsと同じ位置の標準偏差にいる打者が現在に存在するとすれば、その打率は3割8分となる。(= よほど運がよくないと4割打てる打者はでてこないということ。)

オリンピックの男子マラソンの優勝者と20番目の選手の差分は、1932年では39分。一方、最近では、5分から7分程度の差分にまで短縮されている。

スキルの変化について、深堀していくと、

各個人の時系列でのスキルの変化は、その分野ごとの弧を描く。俊敏な筋力が重要なスポーツではピークが比較的若く、陸上選手は22-23歳、バスケは20代半ば。一方、野球やアメフトは20代後半。ゴルフは32-35歳までとピークが遅くかつ長く続く。テニスのグランドスラムの男子優勝者のデータを分析すると、過去40年間での平均値/最頻値ともに24歳。30歳を超えて優勝した選手は4人のみ。

スキルを表す弧のグラフは、実は二つの要素を合わせた結果。

Fluid intelligenceは、新しいことに対応できる能力。これは20代前半の若い時にピークを迎えて、そこから右肩下がりに一直線に衰えていく。Crystallized intelligenceは、経験を積み重ねることで有利になる能力。ある程度の年齢まで一気に伸びたら、そこから大きくはプラスにはならないが、フラットに近い緩やかな右肩上がりになっていく。具体的には、機関投資家が最高の成果をだせるのは44-45歳程度。家の購入でベストな判断をできるのは53歳と言われている。年を取ると、自分の既存の知識をもとに最初に頭に浮かんだ答えを採用し、我慢強く確認作業をしなくなることで、誤った判断をしてしまうことがある。よって、経験があればあるほどがよいと思われる分野でも、年をとるのが必ずしも有利とはならなくなる。

例えば、一般的にはweb/アプリの世界は、経験が活きることがあっても、新しいことに対応しなくてはいけないシチュエーションが比較的多く、技術の入れ替わりが早いので、ピークが高い年齢にはなりづらいと解釈すればよいですかね。

一方、運は予想しがたい。

最も有名な絵画はモナリザ。調査結果では85%の数値。しかし、1850年時点の鑑定では、最も価値の高い絵画ではなかった。1940年に、盗難 -> 発見の事件で大きなニュースになったのがきっかけで以降、人気が沸騰した。

コロンビア大で、誰も知らないインディーバンドの40曲をランダムに視聴させた実験をした際、他の人の好みやそれによるランキングを知らせたときと、知らせないときは、人の判断に大きな差がでる結果となった。曲のクオリティは確かに影響する。ベストの楽曲は、ソーシャル性のある環境ではもっと大きな成功を納める。しかし、上位1/3もしくは上位半分にクオリティが入っている曲に対して、もしソーシャルな影響のまったくない状況になると、人の判断はどうなるかまったく予想がつかない。

裏を返すと、必ずしも技術的にベストなプロダクトが成功するわけではなく、そこそこ良い新しいプロダクトの中でそれを支持してくれる人、かつその勢いを増してくれる仕組みがあるところが有利というのに当てはまりますね。テクノロジー系のプロダクトでシリコンバレー発のものが成功を納める可能性が高いというのが典型的な事例かと。

「キャリー」「シャイニング」などで知らせる作家Steven Kingは、出版社が勧める「1年1作品」という方針に反発して、Richard Backmanという偽名での作品の発表も続けたが、まったくヒットしなかった。しかし、最終的にSteven Kingが作者であることが知れたら、同じ作品の売上が10倍+増した。

まとめると、運というのは、現実世界にはソーシャル性という軸が入るので、その度合いによって余計結果を想像しづらいということですが、逆にソーシャル性をコントロールできれば、「運次第」の状況の中でも、自分でコントロールできる、つまり努力の余地があるということですね。

このあたりのポイントについて、Michaelは最後の質疑応答のセッションで関連する回答をしています。

例えば、投資業務の世界ではスキルが低くて、将来を読み切れずに成果がでないというわけではない。知的レベルの高い人を集めて、スキルは相当高いが、その能力の差分が小さいので、投資のリターンを大きくだせるかどうかに、運の要素が大きくなってしまう業界である。しかし一方で、相場は他の人がどう思ってるかに大きく左右される。他の人という集団の言うことが正しいかどうかは、構成している人々の考えに偏りがないか、全体の情報をまとめる仕組みがあるか、インセンティブが影響を与えているかに左右される。心理的な理由もあるが、投資する側がポートフォリオのある係数を改善しなくてはいけないというテクニカルな事情でアクションを起こすこともある。このように事象をブレークダウンしていくことが大切。(= 投資のパフォーマンスは運の要素が大きいが、世の中が/他のプレーヤーがどう思っているかの分析により、自分たちでコントロール/正しい予想をできる余地があるということ。)

「成功する秘訣は、まずはベストだと思われるグループに入れるように努力すること。しかし、その後にトップグループの中での差分がなくなってくると、運の要素が大きくなる。そうなると、自分でコントロールできないの?」という質問に対しては、

ベストを尽くすしかないという側面があるのは確か。しかし、スポーツのプレーヤーとして結果のコントロールは難しいが、ゲームのルールの中にソーシャル性の影響を持ち込めるビジネス分野であれば、努力と工夫できる余地がもっとでてくる。

なぜ、運の影響度合いを理解して、何をすべきか冷静に判断することが難しいのかについては、

人は実際に起きた結果からストーリーを組み立てる傾向がある。実際に起きていないことを選択肢から排除してしまう。

ある治療のために右脳と左脳の関係を独立させた患者の場合に起きた現象は、例えば、鍵を見せると右脳が反応して鍵を差すドアノブを指差す。その次に、なぜドアノブを指差しているのかを問うと、言葉を発する役割の左脳は、この場合は右脳の情報にアクセスできないので、でっちあげのストーリーを語りはじめた。

Jonathan Gottschalk曰く、「ストーリーを語りたい気持ちは、不確かさやランダム性、偶然を嫌う。意味付けをするのに執着する。意味のあるパターンを見つけられなければ、強制しようとする。つまり、可能なときは真実のストーリーを語るが、できないときは嘘をつくりだす。」

以上を鑑み、どう行動すべきかの指針については、

アウトプットがその人のスキルによることが明確にわかる場合。例えば、ピアノやテニスでは、計画的/継続的にスキルアップの努力をする。アクションのクオリティとそのアウトプットの相関関係が明確にわかりづらい、例えばギャンブルや投資業務のケースは、運が大きくしめるので、プロセスに注力。強いプレーヤーはルールをシンプルに。弱いプレーヤーはルールを複雑にして、勝つチャンスをあげる。戦争において、戦力の劣る軍は直接対決を避けて、ゲリラ戦にもちこむようなのが好例。(= コントロールできる範囲を増やす努力。)

ソフトウェア開発の世界はどうなんでしょうか?

開発言語 / ツール / フレームワークの進歩のおかげで、そこそこのプロダクトが以前よりは短い期間でだせるようになってきているので、全体のアウトプット(この場合はできあがったモノとかけた時間から評価するアウトプット)の平均レベルは上がっているのではないかと推測できますが、「ものすごくできる人」と「平均的にできる人」のアウトプットの差分は時系列でどう変わってきているのでしょうか。標準偏差が広く、変化ないのであれば、ひたすらスキルアップに注力。もし、標準偏差が小さくなってる場合は、スキルを磨く必要がないのではなく、それ以外のコントロールできる要素を見つけて努力することもプラスαで必要ということになります。

Michael J. Mauboussinは、投資銀行 Credit SuisseのGlobal Financial Strategies担当のManaging Directorであり、非常勤でColumbia Business Schoolの教授を兼任。このGoogle Talksでの講演は、彼の著作 “The Success Equation: Untangling Skill and Luck in Business, Sports, and Investing” に基づいていています。

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